周りから指摘を受けて、口が臭いなと感じているが、虫歯は無いし、ちゃんと歯は磨いている…原因を探っていたら、「ピロリ菌」という言葉が気になり始めた、そんなあなた。
口臭の原因の9割は口腔内のトラブルですが、残りの1割は胃や内臓の調子が悪い場合です。後者の場合、ピロリ菌によって問題が引き起こされている可能性が高いです。
ピロリ菌とは、胃の粘膜に住んでいる悪い細菌のことで、日本人の2人に1人が感染していると言われています。口臭が気になるあなた、もしかするとその口臭はピロリ菌が原因かもしれません。ピロリ菌が原因だと分かれば、ピロリ菌を除菌し、口臭を消すことができます。
この記事では、なぜピロリ菌が口臭を生みだすのか、あなたの口臭はピロリ菌によるものなのか、またあなたの状況にあったピロリ菌の検査・除菌の方法をご紹介します。
Contents
1. ピロリ菌の口臭とは?
胃に住み着いたピロリ菌は、胃に負担をかけ消化不良や胃炎を引き起こします。これが口臭の原因になり、尿のような臭いや卵が腐った臭い を生み出します。
そもそもなぜピロリ菌に感染するのでしょうか。この章では、ピロリ菌に感染する原因とどのようなメカニズムで口臭が発生するのかお伝えします。
1-1. 様々な病気の原因になる「ピロリ菌」とは?
ピロリ菌は、正式名称で「ヘリコバクター・ピロリ菌」と言います。らせん形をした細菌で、除菌しない限り胃の中にとどまり、胃の粘膜を攻撃し続けるやっかいな細菌です。
ピロリ菌はさまざまな病気の原因になることが分かっています。たとえば、以下の病気がピロリ菌と強く関連があります。
- 胃がん
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 胃ポリープ
- 胃に発生するリンパ腫
- 萎縮性胃炎
ピロリ菌はがんまで引き起こしてしまう悪い細菌なのです。さらにやっかいなのは、ピロリ菌に感染した人の全員に自覚症状が出るわけではないことです。
ピロリ菌に感染すると、ほとんどの人が慢性胃炎になります。しかし、この状態では自覚症状がほとんどありません。感染者の約70%の人は普段の生活では無症状という報告もあり、自分がピロリ菌に感染しているかどうかは、慢性胃炎が進行して、胃潰瘍や胃がんになって異変に気づくのです。
感染する経路は現段階はっきりと分かっていませんが、まだ免疫力が弱い幼児期に、汚染された水や食べ物によって経口感染するといわれています。戦前の日本では、上下水道が十分完備されていなかったことで、団塊の世代以前の人(1940年以前に生まれた人)のピロリ感染率は約80%前後です。その後、衛生環境が整ったことで若い世代の感染率は年々低くなっています。10-20代の方の感染率は20%ほどです。
またピロリ菌は母子間など家族間の感染が示唆されており、とくに妊娠・出産前の女性は感染しているかどうかを調べてみることを強くお勧めします。
次節では、このピロリ菌がどのようなメカニズムで口臭を生み出すのかお伝えします。
1-2. ピロリ菌が口臭を生み出す2つの理由
胃の壁を攻撃して、胃に負担をかけてしまうピロリ菌。口臭の原因の9割を占める口腔内の口臭では「腐った玉ねぎのような臭い」がしますが、ピロリ菌の感染者からは「尿のような臭いや卵が腐った臭い」がするのが特徴です。 ピロリ菌が原因で生まれる口臭には、以下の理由があります。
◇ピロリ菌が生み出すアンモニア(尿のような臭い)
胃の中にいるピロリ菌は自分を守るために、ウレアーゼという酵素を分泌してアンモニアのバリアを作り出します。胃の中では食べ物の消化を助ける胃酸が分泌されていますが、アンモニアのバリアが胃酸を中和し、ピロリ菌が生き延びやすい環境を作ります。その時に発生したアンモニアが胃の中で充満し、血液に取り込まれ、全身へと運ばれていきます。その血液が肺にまで運ばれてくると、気化され、呼吸を通じて口から漏れでてしまいます。これが口臭なのです。アンモニアは尿のような臭いが特徴です。
◇慢性胃炎や胃潰瘍によって引き起こされる硫化水素(卵が腐った臭い)
ピロリ菌が悪影響を及ぼすことで、負担の掛かっている胃は炎症を引き起こし、慢性胃炎や胃潰瘍になります。こうした状況になると胃の働きが低下して消化不良を引きこしてしまいます。消化しきれずに胃の中に残った食べ物は、体内で発酵し、強烈な悪臭ガスである硫化水素を発生します。硫化水素は卵が腐ったような臭いなのが特徴です。 胃の中に充満した硫化水素は、ピロリ菌が生み出すアンモニア同様に、血液を通じて肺に運ばれて、口から漏れ出てしまいます。
このようにして、ピロリ菌は感染して胃の調子がおかしくなると「尿のような臭い」「卵が腐った臭い」が口から発せられるようになります。その独特な臭いに心当たりがあるなら、ピロリ菌に感染している可能性があります。
ピロリ菌は検査をして、除菌をすることができます。除菌の方法は記事の後半で説明しているので確認してみてください。
2. あなたはピロリ菌に感染してる?感染の疑いがあるかチェックしよう
ピロリ菌は口臭の原因になるとはいえ、自分の口臭の原因はピロリ菌なのか、臭いだけでは分からない方もいるのではないかと思います。そこでピロリ菌がいるかどうか目安となるチェックシートを用意しました。
このシートは現在考えられているピロリ菌の感染経路やピロリ菌の方にはどんな特徴があるのか、調べてまとめたものです。育ってきた環境や今までの生活を振り返りながら、目安程度にチェックしてみてください。
いかがでしょうか? 該当する項目が多ければ多いほど、あなたはピロリ菌に感染している可能性があります。自宅検査や医療機関で検査をして、実際にいるかどうか確認することをおすすめします。
3. 忙しくて病院に行く時間がない方には、自宅検査がおすすめ!
会社勤めの人にとって、ピロリ菌に感染しているかどうかも分からない、胃が痛いというわけでもないにも関わらず、わざわざ病院に行って検査するのは面倒な話です。また病院では「初診料、診察料、薬代」など手間と費用が掛かってしまいます。そんなあなたにお勧めなのが、自宅で検査できるキットです!
これはインターネット上で販売されているキットで、自宅で採血、採尿、採便を行い、専門の検査機関に送って、ピロリ菌に感染しているかどうか検査を行うことができます。
Amazonや楽天などで販売されており、価格は4000-6000円ほど。期間は1週間もかかりません。
検査する際、危険を伴うリスクは無いのですが、万が一陽性だった場合、この結果を病院に持っていったとしても、ピロリ菌診断の根拠として使われるかどうかはお医者さん次第です。医院によっては、再度検査を受けなければならない場合があります。
4. 病院で行うピロリ菌検査の手順と価格
お腹の調子がよろしくなく、口臭も間違いなくピロリ菌の可能性を感じたならば、病院でお医者さんに相談してピロリ菌の検査を受けましょう。検査を受けることでピロリ菌に感染しているだけでなく、慢性胃炎や胃や腸の病気があるかどうかも知ることができます。
ピロリ菌の検査は、内視鏡検査や造影検査で胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など病気にかかっているかどうか調べます。診断をした上で、続いて検査でピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。
なぜかというと、保険治療を受けられるピロリ菌患者は、「内視鏡検査にて胃炎の確定診断がなされた患者」「内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の確定診断がなされた患者」と推奨されているためです。つまり一度内視鏡検査等を行わなければ、ピロリ菌の検査とピロリ菌の除菌治療を行うことは基本的にできないのです。
しかし現実は、病院によって対応が異なるため、内視鏡検査をせずピロリ菌検査を行いたい場合は一度病院に相談してみることをおすすめします。
5. 病院で行うピロリ菌検査の方法
内視鏡検査で胃炎等が確定診断されたのち、ピロリ菌を調べる方法はいくつかあります。多くの病院で採用されている検査は、「尿素呼気試験」と「血中抗体検査」です。それぞれにメリット、デメリットがあるので、検査前の参考にしてみてください。
5-1. 正確で、すぐに結果が分かる『尿素呼気試験』
尿素呼気試験は、尿素を含んだ検査薬を飲み、専用の袋に息を吐き出し、二酸化炭素が多く含まれているか調べる検査方法です。ピロリ菌は尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解するため、感染していた場合、二酸化炭素が多く検出されます。約30分と短時間で終わり、もっとも精度の高い診断法です。
ただし30分ほどでピロリ菌の有無を確認できるのは、病院に息を分析する装置がある場合のみ。逆に分析する装置が完備されていない場合、専門の機関に郵送をして結果を待つ必要があります。その場合、結果が分かるまでに1週間ほどかかるため、早く結果を知りたい場合は病院に装置があるかどうか、事前に問い合わせる必要があります。
自費価格 | 6000円程度 |
メリット | とても簡単に早くできる |
デメリット | 他の検査と比べると少々価格が高め。息を分析する機械がない場合、時間がかかる。 |
5-2. 健康診断などで血液検査や尿検査を通じて一緒に受けられる『抗体検査』
抗体検査は血液中や尿中にピロリ菌の抗体が無いかどうか確認する方法です。ピロリ菌が胃に存在した場合、ピロリ菌を排除するための抗体が身体のなかで作られます。そのため抗体の量が多い場合、ピロリ菌に感染していると判定されます。抗体検査には大きく分けて2つのやり方があります。血中抗体検査と尿中抗体検査です。
血中抗体検査は、健康診断や人間ドック、お住まいの自治体の胃がん検診を受けるときにオプションとして選択できることが多く、ついでに受けるということも可能な方法です。
尿中抗体検査については判定に30分程度で済むため、スムーズに診断することができます。
しかし、ピロリ菌の感染直後や免疫異常のある場合などは陽性と判定されない場合があることと、また胃炎が進行して胃がんリスクが高くなっているような場合はピロリ菌量が減少しているために、陰性となってしまうことがあるので注意が必要です。
自費価格 | 3000円程度 |
メリット | 血中抗体検査:他の検診と一緒に受けられることがある/尿中抗体検査:判定の時間が短い |
デメリット | 場合によっては陽性と判定されない場合がある |
5-3. 体に負担がかからない『便中抗原検査』
便中抗原検査は、便中のピロリ菌を検出する方法です。「尿素呼気試験」と同等の信頼性の高い検査法です。
ピロリ菌に感染すると、ピロリ菌の一部が便の中にも存在するようになります。そこで採便を行い、感染しているかどうかチェックをします。採便自体は簡単ですが、あらかじめ病院から検便キットをいただいて、自宅で用意して提出するという手間が発生します。また検査は検査機関で行われるため、結果がわかるまでに時間がかかります。
しかし、錠剤を飲んだり、採血のように注射を使わないため、体に負担が掛からない点がポイントです。そのため子どもの検査などに使われます。
自費価格 | 3000円程度 |
メリット | 体に負担がかからない |
デメリット | 自宅で採便をする手間がかかる、結果がわかるまでに時間がかかる |
5-4. 内視鏡を使った検査
内視鏡検査時に胃の粘膜を少し採取して、菌を培養したり、ピロリ菌の出すウレアーゼを調べたり、顕微鏡で実際に調べるなどして、ピロリ菌の有無を確認する方法です。
ピロリ菌は胃粘膜に一様に生息しているわけではないため、ピロリ菌感染患者だったとしても、菌のいない部分から胃粘膜を採取すると陰性になってしまう場合があります。
また調べるために人件費と時間が掛かるため、あまり効率的ではないことから多くの医療機関では上記の内視鏡を使わない検査が行われています。
自費価格 | 3500円~13000円(内視鏡検査代を含めると15000円~25000円) |
メリット | 内視鏡検査時にそのまま胃の粘膜を採取するため、検査に手間がかからない |
デメリット | 感染している場合でも、陰性と判断される場合がある。他の検査と比べると費用が高い |
6. ピロリ菌に感染していると分かったら、除菌しよう!
もしピロリ菌に感染していることが分かったら、医院で除菌治療を行いましょう。ピロリ菌の除菌治療では、「3剤除菌療法」が行われています。具体的にどういう方法なのか詳しく説明していきます。
6-1. 除菌の流れ
ピロリ菌を除菌する「3剤除菌療法」は、胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質の3つの治療薬を1日2回、7日間服用する方法です。最初に3つの治療薬を7日間服用することを「一次除菌」と呼びます。この段階で80%の人はピロリ菌の除菌ができます。
1-2ヶ月後に効果判定を行い、陰性になれば治療は終了ですが、陽性だった場合は再度抗生物質の1種類を変更して1週間服用します。これを「二次除菌」と呼び、95%以上の人は除菌ができます。
6-2. 価格
除菌のための薬の価格は以下の通りです。
除菌薬の種類 | 価格 |
一次除菌薬 | 約6000円 |
二次除菌薬 | 約5000円 |
これは自費で支払った場合です。内視鏡検査で胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍であると診断された場合は、保険治療が適用され1/3に抑えることができます。
6-3. 副作用
ピロリ菌の除菌治療には、以下の副作用が起きるケースが稀にあります。
- 軟便
- 下痢
- 腹痛
- 味覚障害
- 発熱
- 頭痛
これらの副作用は一時的な症状で、2-3日程度で治まるのがほとんどです。特に心配ありません。しかし、長期にわたって続く場合や症状がひどくなる場合は、医師に相談しましょう。
6-4. 注意事項
ピロリ菌の除菌薬を処方されても、「ただ飲めばいいんでしょう!」というわけではありません。正しい方法で適切に飲まなければ、除菌ができない場合があります。そこで気を付けておきたいのが以下の2点です。
・処方された薬を飲み忘れない
ピロリ菌の除菌のために処方された薬は、朝夕2回7日間、しっかり服用しなければなりません。
薬を飲み忘れた場合、治療薬に対してピロリ菌が耐性を持つ可能性があります。それゆえ、薬が効かなくなってしまう恐れがあります。
・アルコールとタバコの摂取を控える
処方された薬の中には胃酸を抑える薬がありますが、アルコールやタバコを摂取してしまうと胃酸の分泌が促進され、抗生剤の効果が下がってしまいます。その結果、ピロリ菌の除菌が不完全のままで、除菌に失敗することがあります。なので、薬を服用中はアルコールとたばこをなるべく控えましょう。
6-5. 日本での再感染の心配はなし!
除菌療法を受けた人のほとんどは除菌に成功しますが、除菌が成功したと思っても、ピロリ菌がわずかに残っていたり、ピロリ菌に再感染する場合が1%程度あります。しかし現代の日本は衛生状態が極めて綺麗なため、外部からの感染の心配はありません。
また除菌が成功すると慢性胃炎の症状は快方に向かいますが、およそ10%ぐらいの人に逆流性食道炎が新たに発症することがあります。これは胸やけなど胃酸の逆流症状が出る病気です。ピロリ菌がいなくなってことで胃酸分泌が回復するために発症すると考えられています。
6-6. 病院の探し方
ここまでピロリ菌について、検査や除菌の方法をお伝えしてまいりましたが、色んな情報がありましたね!
もし検査や治療を受けるときはピロリ菌に関する専門的な知識を持っている医師の下でしっかりと行いたいというのが本音ではないでしょうか。実はそんな方に向けて、ピロリ菌研究を専門とする日本ヘリコバクター学会が認定医制度を行っています。
この認定医制度は、ピロリ菌感染症の診断と治療を適確に行える医師を育てるために発足したものです。公式サイトには、認定医は除菌療法に関する一般市民の不安や疑問について、相談可能な医師として活動すると明記しています。
その認定医はこちらのサイトから調べることができます。お住まいや勤務地に近い認定医の病院でピロリ菌検査を受けましょう。
7. おわりに
いかがでしたでしょうか?
もし口臭が尿のような臭い、腐った卵のような臭いであれば、ピロリ菌に感染している、あるいは胃が異常な状態であることを疑ったほうがよいでしょう。
またその臭いに気づいているということは、胃がんの早期発見につながるかもしれません。ピロリ菌が進行して胃がやられないうちに、ピロリ菌検査を受けましょう。
ピロリ菌を治して、あなたを悩ませる口臭と決別し、健康的な生活を送りましょう!
参考文献
「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対する除菌治療に関するQ&A一覧|疾患Q&A|医療関係のみなさまへ|日本消化器病学会 http://www.jsge.or.jp/member/shikkan_qa/helicobacter_pylori_qa
「日本ヘリコバクター学会 – 規定・細則」http://www.jshr.jp/medic/rule.html
今野武津子、横田伸一、高橋美智子、他 日本人小児の最近のピロリ菌感染率と感染経路について.日本ヘリコバクター学会誌 15(2): 68-74, 2004